トマトのおでん

少しの時間が出来たので、普段着のままで汽車に飛び乗った。

行先を特段決めているわけではない。ただ、何となく西に向かう汽車に乗って、西の方へ行ってみたいと思っただけである。

古びた型の普通列車。ゴトゴトいう音から、タンタン、タンタンいう軽快な音に代わって、汽車は駅を離れて行く。

窓の外の景色は、密集した家並みを急ぐようにすり抜けてゆく。

やがて、目の前には遠くまで見渡せる田園地帯が広がってきた。のんびりとした風景がゆっくりと流れていく。

時折、その風景の中に、園芸用のビニールハウスが目につくようになってきた。

ほどなく、汽車は日下という駅で止まった。トマト栽培の盛んな所だと聞いたことがある。

行き違い列車を待つために、25分間停車するというアナウンスを聞いて、改札に了解をとって外へ出てみた。

駅前の食堂の店先に、トマトおでんあります、という看板が出ていた。「へぇー、トマトのおでんがあるのか」と少し興味がわいてきた。

忘れかけていた好奇心の虫が、また、頭をもたげはじめていた。

近づくと、コンニャクや厚揚げ、たまごといった、おでんの常連と一緒に、トマトが丸ごと気持ち良さそうにプカプカと浮かんでいた。その一つを買って、丸かじりしてみた。

あたたかい感触とともに、懐かしいふるさとの味が、口いっぱいに広がった。